研究概要 |
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)はメチシリンのみならず多くの抗菌剤に耐性を示す。本菌による感染症は院内感染症として,わが国の大病院を中心に重要な問題となっている。院内感染対策を有効に行うには,1)感染源,感染経路の把握と,2)MRSAの迅速同定が必要である。 1)名古屋大学病院内でのMRSAの分離状況を調べ,1990年〜1992年に分離されたMRSAのDNAタイプを決定した。DNAタイプはパルスフィールド電気泳動法にて切断DNAを分離し解析した。この間に解析の対象となったMRSAは約350株であったが,DNAタイプをみると,これらは約80通りに区別された。DNAタイプをもとに院内におけるMRSAの広がりを患者間,病棟間で経時的にみてみると,ある病棟内では明らかに特定のDNAタイプを示す株が患者間感染を起こしていることが示された。これらの患者間感染は医療従事者を介して拡がっていることが示唆され,厳重な隔離と清潔操作の必要性が示された。一方この様患者間感染の事例以外にも多くの散発例がみられ,これらは患者本人の保菌状態からの発症と考えられた。保菌者の取り扱い,特に外科患者における手術前の除菌の必要性が示された。 2)MRSAの迅速同定にPCR法を用いた。MRSAのPBP2′の産生に関与するmecA遺伝子を増幅した。本法によれば数時間でMRSAの同定が可能となった。 現在、全国から集められたMRSAのDNAタイプを検討中であり,地域的な分布を調べている。またDNAタイプと毒素産生能,薬剤耐性度さらに病原性との関係を調べる予定である。
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