MRSA院内感染の疫学研究には従来よりファージ型別、コアグラーゼ型別、薬剤対性型別、生物学的性状などが用いられてきた。われわれはMRSA臨床分離株について、DNA解析による分子生物学的な手法を用いて疫学研究を行っている。 名古屋大学病院の入院患者におけるMRSAの分離頻度、MRSA感染症の発生頻度を引き続き調査し、分離されたMRSAをパルスフィールド電気泳動法によってゲノタイプを決定し、院内における感染の実体を詳細に検討した。 さらに全国国立大学病院から集められたMRSA563株についてもゲノタイプを調べ、地域的なMRSAの広がりの違いについても検討した。 これらのゲノタイプをまとめ、MRSA分離株のカタログともいうべきDNAタイピングシステムを、コンピューターによって作成した。このシステムを用いれば、院内での菌の比較はもちろん、病院間あるいは国の内外の菌の比較も可能になった。 MRSAのなかでも菌株毎にその病原性の程度が異なる。とくに重症のMRSA感染症の患者から分離された株についてはくわしく調べ、それらの株で特徴的なゲノタイプがあるのか否かを検討している。もしこのことが検証できれば、ゲノタイプから重症感染症を引き起こす可能性のあるMRSA菌株をあらかじめ知ることによって、予防対策をたてることが可能になる。
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