好中球中にあって、殺菌作用を担うミエロペルオキシダーゼ(MPO)は「過酸化水素-ハロゲン系」により強力な化学種を産生し、殺菌の呼吸系を阻害する働きを持つが、活性中心が「鉄-ポルフィリン」なのか「鉄-クロリン」なのか活性中心の構造は不明である。 1.MPOの活性中心のヘムの「モデル」としてプロトポルフィリンの光化学反応でフォトプロトポルフィリン(pPP)を合成し、その鉄錯体(クロリン型修飾ヘム)の合成、再構成蛋白合成を行い、EPR、共鳴ラマン、MCD、光吸収スペクトルを用いて、活性中心の特異な電子状態を解明した。光吸収スペクトルの結果はMPOとよく似ており、pPP鉄錯体はMPOのヘムのよいモデルといえる。 2.活性中心(ヘム)の構造、モデル化のみならず、活性発現機構の解明にはヘム周辺の構造情報も重要である。MPOは第2基質としてフェノール類と反応しヘムポケット内でヘム鉄と相互作用するので、種々のフェノール誘導体を用いてヘム鉄の電子状態・ヘム空間との相関を明らかにする研究をEPR分光法を中心に行った。MPOにサリチルヒドロキサム酸(SHA)がどの様に結合するかEPRの結果を最近報告されたMPOの立体構造の結果と比較検討した。芳香属基質の6員環がMPOの遠位ヘムポケットの疎水領域に、ヘムとほぼ平行に結合する事が解かった。他のペルオキシダーゼとフェノール類の複合体のEPR分光測定も行いMPOの結果と比較し、ペルオキシダーゼの多様な基質特異性がヘムを包み込む蛋白質の構造の違い、ヘム鉄を中心とする活性機能がその周辺のアミノ酸残基の種類、構造とどのように結びついているか考察した。MPOの活性中心(ヘム)と基質との立体相互作用についての研究はMPOの特異な生理活性を理解する上で重要であり、今後の研究の発展が期待される。
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