エッジワース(F.Y.Edgeworth)の体系的研究の足がかりをなすために、次の2項目について行った。すなわち、1.エッジワース最初の著作『倫理学の新方法と旧方法』(1877年)における彼の主張の考察、2.エッジワースの著作目録・書簡目録作成および伝記執筆の準備、であるが、それらの成果は以下の通りである。 1.『倫理学の新方法と旧方法』の内容を端的にまとめるならば、次のとおりである。同書は、大きく2つのパートから構成され、その前半部では、シジウィック(H.Sidgwick)やバラット(A.Barratt)の著作の整理・検討から物理倫理学の可能性について論じられた。このなかでエッジワースは、バラットに必ずしも賛成というわけではないが、倫理学と物理学の間の隔たりを結ぶ実験心理学的な手法の意義を認めた。後半部では、実験心理学の知識に基づいた「厳密功利主義」理論を展開し、従来の功利主義が容認してきた平等原理を否定した。このようにエッジワースは、倫理学の物理学的基礎を認めず、また功利主義における平等原理を肯定するシジウィックを批判しており、のちの『数理精神科学』(1881年)と同様の立場であることがわかる。 2.2005年2月に2週間の日程で、アイルランドにて資料収集を行った。ダブリンのトリニティー・カレッジのマニュスクリプト・デパートメントの協力により、あまり明らかにされてこなかった同カレッジ時代のエッジワースについての資料を得た。また、後年彼の手による手紙を1点発見した。さらに、ロングフォード州立図書館の協力により、エッジワース家の家系図やエッジワースが生まれ育ったエッジワースタウンの19世紀当時の地図、国勢調査記録、彼の生家のスケッチなど、伝記作成に重要な資料を得た。
|