エッジワース(Francis Ysidro Edgeworth)についての体系的研究の一環として、主に次の2項目についての研究をおこなった。すなわち、1.エッジワースの「課税の純粋理論」(1897年)にみられる功利主義思想と初期のエッジワースの功利主義思想の関連性の是非、2.エッジワースの伝記作成のための資料収集であるが、これらの成果は以下の通りである。 1.「課税の純粋理論」にみられるエッジワースの功利主義思想は犠牲説についての議論のなかにみられる。彼は『数理精神科学』において展開した功利主義についての経済学的アプローチをもちいることによって利益説を否定した。また、エッジワースはさまざまな同等的犠牲説を批判し、最小犠牲説の正当性を訴えたが、その際に用いられたのが彼の初期の著作(『倫理学の新方法と旧方法』、『数理精神科学』)に共通する(1)快楽の同一単位測定性の肯定、(2)快楽受容能力の差異に基づく不平等分配の肯定を論じた「厳密功利主義」の議論であった。 2.2006年2月にアイルランドのTrinity College Dublin、Longford Library、英国オックスフォードのBodleian Library、Balliol College、Nuffield Collegeにおいて資料収集をおこなった。Longford Libraryの協力のもと、エッジワースの出身地であるEdgeworthstownにおいて、彼の洗礼記録を発見し、彼の元々の名前がYsidro Francisであったという事実を立証することができた。またオックスフォードにおいては、彼のオックスフォード学生時代および教授時代の記録を収集した。さらにNuffield Collegeに所蔵されている彼の従妹による手記から、幼少時代のエッジワースおよびその家族の情報を入手した。
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