研究概要 |
本年度は,モデレーショニズムの検証とそれに基づいた学習アルゴリズムの提案,計算機シミュレーションによる検討を行った.まず,ワークステーションを利用した人工的な環境を作り,2人の人間がそれに如何に順応していくかを調べた.この心理物理実験は,多層神経回路に対して有効な学習アルゴリズムの手がかりを与える.ここで,環境は人間の指の動きに従って,振動刺激を与えるものであり,人間と環境はシリアルに繋がれたループをなす系を形成する.結果として,各々の人間はその出力をモデレートにするものの,全体としては意味のある系を形成しなかった.このことは,回路網全体を統括する評価関数の存在を示唆している. その結果を踏まえて,回路網の入出力を評価関数とする教師なし学習アルゴリズムを提案した.これは,システムの安定状態での評価関数を最小化する単純なものであるが,変動する環境には適応するが,変動しない環境には適応しないと言う注目すべき性質を持つ.変動しない環境は,人工腕の針が全く動かないことに対応する.このことは,動かない針を避ける必要はない意味で現実的である.シミュレーションでは,3層神経回路を含む人工腕と2つの状態を持つ人工腕を取り上げ,反射弓の形成を試みた.これらの結果から,環境の変動の効果,多層神経回路での動作が理論通りであり,反射弓を形成できることが確認できた.また,2つの状態を持つ人工腕のような多層回路の非線形性を要求する課題に対しても,本アルゴリズムが有効に機能することが確認できた.本アルゴリズムは,環境に特別な教師としての機能がない場合に,運動パターンの生成が可能な学習法として機能しており,モデレーショニズムの概念の妥当性と有効性を示している.
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