研究概要 |
アシルリチウムは、カルボニル炭素上に負電荷が存在するという特異な構造のため、この化学種を経由する反応はしばしば複雑な結果を与える。われわれは、分子内変換、すなわち、カルボニルリチウムが複雑な逐次反応を起こす前に、エノラートのようなより安定で求核攻撃を受けない化学種にすばやく分子内変換するという方法論を用いてアシルリチウムの制御を試みている。今年度は昨年に引き続き窒素の脱離をともなうイノラートへの変換反応を中心に検討をおこなった。 トリメチルシリルジアゾメタンとn-BuLiとの反応により調製したリチオシリルジアゾメタンを-78度、常圧下一酸化炭素と反応させるとシリルイノラートが発生することはイノラートがクロロシランで捕捉することによりジシリルケテンが生成することから確認している。これに関しては昨年報告した。イノラートに1.1当量のトリメチルアルミを加えて室温まで昇温して1時間撹拌した後、オキシランを加え、後処理するとα-シリルラクトンが良好な収率で単一生成物として得られることを見い出した。この反応はシリルイノラートがオキシランと反応し、生成したケテン中間体に対して分子内アルコキシ基が環化して生成物に至ると考えている。この反応はイノラートが炭素親電子剤と反応した稀な例である。オキシラン以外の炭素親電子剤(アルデヒド、α,β-不飽和ジエステネ、α,β-不飽和ケトエステルなど)もイノラートと反応することがわかった。
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