研究概要 |
平成6年度研究計画,および研究方法に基づき,「いじめ」現象を生起させる児童・生徒の内的世界の動因に関して,学校不適応を示す中学生を対象として,行動観察および深層面接を実施し,さらに質問紙調査法により1)「人間の攻撃性」の建設的側面,および破壊的側面,2)自己,他者受容性の側面,3)「Shyness」の表出性の側面,4)「人間の依存性」の能動的側面,および受動的側面に関して大学生を対象とした調査を実施し,全ての資料収集を完了した。 現在まで収集した資料の分析に基づく概括的な検討により,それぞれ以下のような知見が得られた。 1)学校不適応中学生の内的世界の動因に関して, (イ)勝田市教育研究所適応指導教室「いちょう広場」に通所する中学生13名を対象とした,ほぼ2年間にわたる危機介入理論を援用した教育臨床心理学的対応に基づく経過観察の結果,人間関係性学習機会の欠落,自己表出性の未成熟,依存性の肥大に基づく自発性の欠如,自己・他者受容性および愛他性の未形成が看取された。 (ロ)危機介入理論を援用した介入方略として,即時性,接近性,および参加,連係,期待の各介入視点を導入することが,対象とした学校不適応生徒の内的世界の拡大に有効であることが確認できた 2)「いじめ」現象を生起させるPersonality形成課題の諸側面に関して, (イ)依存性の表出形態としての「甘え」のコントロール可能性とコントロール不可能性の視点が,自己制御の課題として重要であることを明確化できた。 (ロ)コントロール可能性を持つ「甘え」の基底因に,Positiveな方向の自己・他者受容性が働くことを見出した。 (ハ)建設的方向と破壊的方向に明確に分化する「人間の攻撃性」のうち破壊的側面が,自己表出性や人間関係性および集団参加性の水準との関係において,Negativeな方向で「甘え」を規定することを見出した。 最終的な計量分析結果に基づいてはいないが,8人の研究同人による回収資料に関する教育臨床実践研究,および教育臨床事例研究の視点からの検討会では,予め予測した社会・文化的背景が,「いじめ」を含む学校不適応現象の心理的な背景にあることを確認することができた。
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