この研究では、家電・紳士服・化粧品・食品・薬品の5つの消費財のケーススタディーをベースに、日本の流通の構造と機能について理論的および実証的な研究を行なった。それぞれのケースについて、流通構造がどのような形になっているのか、どのような取引慣行がみられるか、そして価格はどのように決定されるか明らかにした。またその分析は、現状だけではなく、これらが歴史的にどのように変わってきたのかということにも触れた。返品制、再販価格維持行為、リベートなど、流通において見られる取引慣行は、歴史的に重要な機能を果たしてきた。その経済的メカニズを明らかにすることは、流通の機能の本質にせまるうえで必要なことだが、本研究ではその目的を十分に果たすことができた。もちろん、経済環境が変わったことで、かつては意味のあった取引慣行も今は資源配分にゆがみをもたらすだけの存在というものもある。その点についても、本研究は触れており、いわゆる「内外価格差」問題についても論じている。これは独占禁止法にもかかわる問題であり、本研究ではこの点にも触れている。流通業の構造を考慮に入れると、企業間の競争のメカニズムもより詳しく分析することができる。そのような分析は、独禁法の問題を議論ずるうえで必要なものなのである。本研究は、日本の流通を対象にしたものである。しかし、その研究成果は、日本だけでなく、流通システム一般にあてはまる多くの現象を明らかにしてくれている。また、日本とアメリカなどの違いを明らかにすることで、貿易摩擦問題にもいくつかの指唆をあたえている。
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