本研究の目的は、誘導ブリルアン散乱という非線型光学効果を用いて、物質中にフォノンを直接励起し、相転移に果たすフォノンの役割を明らかにしていこうとするもので、1)TGSeの準縦波フォノンの相転移点前後での振る舞いの測定、2)フェムト秒誘導光散乱測定システムの開発、3)非線型光学過程である誘導光散乱と線形な測定である通常の光散乱の測定との直接比較、4)揺らぎに対するDebyeモデルの破れの時間領域からの検証、の4点について研究した。 1)TGSeはTc=22℃で常誘電相から強誘電相に相転移する結晶であるが、低温相では準縦波フォノンC_<33>は分極揺らぎを受け、音速に異常を与える。このとき、分極揺らぎの周波数特性が温度依存性を示すため、観測するフォノンの振動数により、音速異常を与える温度が変化する。今回、初めて中間的な振動数領域での測定(450MHz)を行い、上で述べた機構の正しいことを実験的に確かめた。 2)フェムト秒での誘導ブリルアン散乱の測定システムを作った。これにより、THz領域でのフォノンの励起が可能になった。 3)非共鳴条件での光カー効果と光散乱スペクトルは揺動散逸定理で結びついているが、本研究では高分解能の時間・周波数領域での測定を行い、両者が完全に一致することを初めて証明した。 4)秩序無秩序型相転移ではソフト化する揺らぎの存在を考えるが、この揺らぎを説明するモデルとして、Debyeモデルがしばしば用いられる。このDebyeモデルからの破れは、時間領域での測定では、応答関数の原点付近の立ち上がりの存在としてはっきりと現れるため、誘導光散乱の方法で調べることができる。典型的な揺らぎモード持つと思われる液体について測定を行った結果、いずれの液体でもDebyeモデルの破れを観測することができた。
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