研究概要 |
1.モルモット胃幽門部の輪走筋は3-5回/分の頻度で30-40mVの緩やかな脱分極(slow wave)の発生を繰り返し胃平滑筋の収縮活動の基となっている。この電位発生の機序は殆ど解明されてなく、平滑筋に関する生理学の主要課題の1つとして残された問題である。 2.筋切片をさくしていくとslow waveの頻度が減少し、不規則になる傾向を示すが、浸透圧を僅かに下げると回復する。興味がある現象であるが、この機序についの分析は未だ不充分である。 3.Caffeine,theophylline,isobutylmethylxanthineなどの薬剤はslow waveの頻度を低下させ、濃度が高くなるとその発生を抑制してしまうが、、これらはphosphodiesteraseの阻害によって細胞内cyclic AMP濃度を増加させることによると推測される。この抑制は必ずしも膜電位の変化を伴わず、KイオンチャネルをTEAで遮断しても弱い影響しか受けないので、Kチャネルの関与はあったとしても重要ではないと考えられる。 4.細胞内Caイオン濃度を制御している筋小胞体(SR)に作用しSRの機能を抑制するとされるryanodineを作用すると、caffeineによって長時間持続する収縮が発生する。この収縮の発生時でもslow waveは正常とほぼ同じ頻度で発生い得るので,slow waveの発生機構は細胞内Ca濃度の増加で本質的な影響を受けず、またSRの関与もあまり重要でないと推測される。 5.外液のNaイオンを除くと細胞膜は脱分極し、その程度に応じてslow waveが小さくなる。Caを除くとこの脱分極が小さくなるので膜のCaに対する透過性が増加する可能性も示唆されるが、Caチャネル遮断剤によっては影響を受けない。一方、TEAはNa除去による脱分極を強めるので、Na除去による脱分極にはKコンダクタンスの減少が関与している可能性も考えられる。 6.Na除去の時間が10分以上に長くなると、Naの再投与によってslow waveの発生が抑制され、回復にかなりの時間を要するようになる。また、ouabainでNaポンプを阻害した後での回復期にslow waveの著名な増大が観察される。 7.以上の結果から、Naイオンはslow waveの発生に関与しているといえるが、その機序については残念ながら充分解明できなかった。Na除去による脱分極はこれを解く鍵と考えられる。
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