研究概要 |
1.5次の球面収差を考慮した薄膜レンズの球面収差補正特性の評価:前年度に陰影像を用いた新しい方法で測定した球面収差係数は,薄膜レンズ印加電圧が高くなるにつれて計算値との不一致が顕著となった.この理由は,測定の際に5次の球面収差を考慮していないためと考え,5次の球面収差係数を計算により求め,3次の球面収差係数の測定値の補償を行った.その結果,測定値と計算値はよく一致し,作製した薄膜レンズが期待通りの球面収差補正特性を持つことが分った. 2.薄膜レンズを用いた走査透過電子顕微鏡(STEM)像の観察:薄膜レンズをSTEM装置に組み込み,加速電圧200kVにおいて金微粒子の観察を行って,薄膜レンズを用いない通常の像と比較した.このとき,電子プローブ電流は一定に保ち,薄膜レンズを用いたときには,電子線開口角を20mradと通常の約2倍に大きくすることによって,プローブのガウス径を約1/2に小さくし,大きな開口角のために増大した球面収差を補正した.その結果,薄膜レンズ球面収差を補正した方が細かい粒子まで分離して観察でき,分解能の向上が実証できた.球面収差補正により商用の装置の分解能を向上できたのは,世界的にみて本研究が初めてである. 3.電子プローブ電流密度の計算による検討:補正実験の結果を評価するために,プローブの電流密度分布を計算した.その結果,薄膜レンズを動作させないときに大きく広がっていた分布が,補正により改善されて,薄膜レンズ電圧350Vで収差のない理想的な分布にほぼ一致した.この最適な薄膜レンズ電圧は,実験で最も高い分解能が得られたときの電圧と一致した.また,この電圧において,3次の正の球面収差が5次の負の球面収差と互いに打ち消し合うことにより,ほぼ完全な補正が実現できたことも分った.
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