原子・分子衝突物理のなかでも重要なものの一つである電荷移行衝突の断面積を測定し、データベースを築き上げる端緒を開くことを本研究の目的としている。今日までの非常に多くの研究が行われたのにかかわらず、対象とされてきた元素が水素、希ガス、アルカリ金属といった、実験的、理論的取扱の容易なものに限られている。本研究では、過去に調べられてきた非遷移元素の対称型電荷移行断面積のデータを整理するすることから始めた。遷移元素については、その断面積を測定できるビーム直交衝突装置を開発し、遷移元素の一つである希土族元素の断面積の測定を行い、非遷移元素、遷移元素の断面積の元素構造依存性を定性的に解析し、両元素の適用できるような計算方法を確立する。最終的には、全元素の断面積を供することのできる簡易公式を見い出すことを目標とする。 昨年度に行った直交ビーム衝突装置の改良の結果、断面積を数%程度の精度で測定することが可能となった。本年度はこの装置を用いてGd、Yの断面積の衝突エネルギー依存性を測定することに成功した。この装置では主イオン生成にレーザーを用いているので、衝突イオンの内部エネルギー状態を制御することが可能となった。断面積の衝突エネルギー依存性が主イオンの内部エネルギーにより異なることが見い出された。また、Ca、Y、Gdの順で断面積が大きくなることも発見された。一連の実験の結果、(1)基底状態近辺に準安定励起常態をもつ遷移元素は断面積が、非遷移元素のものに比べて大きくなる、(2)遷移元素では重い元素のほうが断面積が大きい、ことが明らかとなった。3年にわたるこれらの研究成果は、重原子衝突物理の研究に寄与するものであり、今後のデータベース構築に役立つものと考える。
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