昨年度は、高度不飽和脂肪酸の水溶液中での酸化安定性が空気中とはまったく異なり、不飽和度の高いもの程酸化されにくく、またn-3系の方が、n-6系の不飽和酸より安定なことを明らかにした。また、このような水系での高度不飽和脂質の特徴的な酸化安定性が、各脂質の分子構造に由来することを示し、適当な乳化剤を共存させることにより、空気中では極めて不安定な高度不飽和脂質も、水系でも酸化に対して非常に安定となることも明らかにした。本年度は高度不飽和脂肪酸をアシル基として有する各種グリセロ脂質(モノアシルグリセロール、トリアシルグリセロール、及びリン脂質)の水溶液中での酸化安定性を検討し、これら不飽和脂肪酸の効果的かつ特異的な酸化防止法の確立を図った。 DHA、アラキドン酸、リノレン酸、及びリノール酸を含むモノアシルグリセロールを合成し、その水溶液中での酸化安定性を検討した所、これらを空気中に放置した場合とはまったく異なり、不飽和度の高いもの程酸化されにくいことがわかった。また、マグロ眼窩油及び大豆油から得たトリアシルグリセロールや、サケ卵及び大豆種子から調製したリン脂質の場合も、空気中の酸化と水溶液中の酸化とではまったくその様相が異なっており、水系では、不飽和度の高い脂質ほど安定となった。さらに、水溶液中での脂質の酸化安定性は、その分散方法によってもその安定性が異なり、一般的に、脂質がより細かい粒子となって分散している場合の方が、DHAやEPAを含む場合にはその酸化安定がより高くなった。以上の結果により、DHAやEPAに特異的な酸化防止法を確立することがほぼ可能となった。
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