昨年度までにPBCにおけるT細胞レセプター(TCR)レパトアをRT-PCR SSCP法により検討し、1)PBC肝組織中に浸潤しているT細胞は特定のTCR Vβを有するT細胞に限定されておらず、ほとんどすべてのVβを有するT細胞が存在していること、2)各VβにおいてSSCP法により数本のバンドが検出されたことから、T細胞はクローナルに増殖しているが、多数のクローンが集積していることが明らかになった。 今年度はTCRレパトアにつき、さらに異なる方法を用いてVDJC profileの検討を加えた。すなわちTCR VβのCDR3-like regionは遺伝子再構成の過程でのnucleotide transferaseの作用により6-8アミノ酸の長さが異なる多様性を示すことから、蛍光標識したCβと各Vβ primerのrun off reactionさらに蛍光標識JβとCβ primerによるrun off reactionを行いPCR産物を電気泳動で解析することによりT細胞の単クローン性の集簇を検討できる。そこで各Vβ1-24のprimerと蛍光標識CβおよびJβ primerを作成し、先ずVβ-CβのPCRによる増幅とrun off reactionを行い、PCR産物を電気泳動後、GENRSCAN software672を用いて解析した。さらに特定のVβについてはVβ-JβによるPCRおよびrun off reactionを行い同様に電気泳動し解析した。 まずVβとCβのPCRの解析では、RT-PCR SSCPの結果と同様にほとんどのVβにおいてPCR産物が認められ、泳動パターンから多数のクローンの集積が示唆された。さらにVβ-Jβのprimerを用いてVβ5およびVβ6についてVDJのprofileを検討すると、Vβ5では特定のJβのみが使用されていたが、単クローン性のT細胞ではなく、またVβ6では多数のJβが使用されていた。これらのことからPBC肝組織に特定のT細胞クローンのみが集積していることは否定的であった。 TCRレパトアの検討結果より、Scheuer I期またはII期の早期のPBCにおいてもすでに多数のT細胞クローンが集積していることが明らかになった。このことは本症の病態には病初期から特定の抗原を認識する限定されたT細胞が関与しているのではない可能性と、初期には限定されていたものが、病変の進展とともにクローンの拡大を生じた可能性を示唆している。今後PBC肝組織よりのT細胞クローンの樹立、さらにより早期のPBC症例の検討などからこの点を解明していく必要がある。
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