我々は平成5年度までに、脊椎動物網膜内におけるドーパミン(DA)の暗所視および明所視網膜機能における役割を検討することを目的として、DAのウサギin‐vivo網膜電図(ERG)におよぼす影響を調べた。その結果DAはscotopic b波を減弱させ、その頂点潜時を短縮させ、律動様小波(OP)を増大させることを見出した。またD_1およびD_2受容体の拮抗剤であるハロペリドールはphotopic b波およびOPを減弱させることを見出した。これらの知見より、DAは暗所視機能を抑制し、杆体-錐体抑制現象の解除を介した明所視機能促進を媒介する可能性が示唆された。 平成6年度は、上記の結果をふまえこれらの作用に関与する受容体の同定をすべく実験を行った。その結果、DAとSCH23390D_1受容体拮抗剤の同時投与ではOPの増大は見られなかったが、DAとスルピリドD_2受容体拮抗剤の同時投与では、DA単独投与の時と同様にOPは増大した。この結果より、OPの発生にはDAが関与しており、D_2受容体よりもD_1受容体を介した機序であることが示唆された。 一方、DA取り込み阻害剤であるノミフェンシン(NF)のウサギin‐vivoERGにおよぼす影響についても調べた。NFは100μMにおいてscotopic b波の減衰およびOPの増大というDA類似の効果を持つことが示された。DA1μMおよびNF30μMのいずれか一方のみではERGをほとんど変化しないことを我々は既に見出しているが、DA1μMとNF30μMの同時投与はscotopic b波の減弱、OPの増大という相加的な作用を持つことが示された。これらより、内因性DA放出量はERGを変化させうるに十分であることが示唆され、同時にDAの網膜内における代謝回転が迅速であるというこれまでの推測が裏付けられた。
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