研究概要 |
前年度の成果として、オリゴDNAを用いた部位限局ランダム変異導入法によってCitrobacter freundii GN346の生産するクラスCβ-ラクタマーゼ遺伝子を鋳型とした変異β-ラクタマーゼ遺伝子ライブラリーを作成し、各種β-ラクタム剤に対する耐性レベルの変化よって酵素活性に影響を受けたβ-ラクタマーゼ遺伝子をスクリーニングし、既に報告したSer64,Lys67およびLys315のほかに、新たにTyr150とAsn152が酵素活性に重要な機能アミノ酸残基であることを見出した。本年度は、まずこれら変異酵素遺伝子を大量発現系に組込み、大量の精製変異酵素を得た。各変異酵素の酵素動力学的パラメータ変化と、RI標識基質(^<14>C-Benzylpenicillin)を用いた酵素反応の速度変化を評価する解析法を行って、Lys67がアシル化ステップ、Tyr150とLys315が脱アシル化ステップに、またAsn152は基質結合に関与することを示す成績を得た。また本酵素の3次元構造モデルをグラフィックコンピューターで構築した。反応モデルを推測するために酵素-基質複合体(ミカエリス複合体およびアシル酵素反応中間体)の安定構造を分子動力学計算で推定し、同定した機能アミノ酸残基と基質との相互作用を3次元的に考証した。この結果は酵素化学的解析結果と矛盾せず、以下の反応モデルを構築した。アシル化部位Ser64水酸基は、β-ラクタム剤ラクタム環カルボニル炭素近傍に位置し、Lys67末端アミノ基の補助によってカルボニル炭素を求核攻撃し、アシル酵素中間体を形成する。次いでTyr150水酸基がこのアシル基近傍に位置する水分子を活性化する一般塩基として作用し、アシル酵素中間体が加水分解され、分解生成物を生じる。また、以前の研究で発見したGlu219ループ領域のアミノ酸変異によるオキシイミノ系セファロスポリン剤分解活性上昇現象を酵素化学的に究明し、これが変異による酵素-基質アシル中間体の安定性の顕著な低下によることを明らかにした。
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