河口域は流れが緩やかになるとともに、海水が混入し、また潮汐により懸濁するので、多くの物質が濃縮しやすい。本研究では大気から降下してくる自然放射能を用いて、河口における濃縮の程度および堆積物中での混合の速度を推定した。河口水と堆積物との間の物質の分配は濃縮のしやすさを決める。堆積物中での混合速度はその濃縮の規模の大きさを決める。たとえ分配比が高い物質でも、混合速度が遅ければ、それらの物質は多量に濃縮せず、一定以上は海に流出してしまう、一方混合速度が速ければ、表面濃度はうすくなり、濃縮されつづける。 福岡市東区多々良一宇見川河口域における干潟のシルト状堆積物、あし埴生地のシルト状堆積物、河口岸の砂状堆積物の3試料について、1.自然放射能の柱状分布の測定、および2.柱状試料中への放射能トレーサーの添加およびその移動の追跡を行った。 自然放射能の柱状分布から、干潟堆積物では表面から下部において、一定の速度で緩やかに混合している。あし埴生堆積物では表面から6、7cmまで、十分はやく混合され、それ以下では干潟堆積物と同じくらいの速度で混合されている。海岸砂状堆積物にはそれらの放射能の吸着されず、混合もされていない。 堆積物中へのトレーサー実験ではナトリウムイオンやストロンチウムイオンのような溶液状の物質はいずれの堆積物中でもイオン拡散により速やかに混合する。分配比の高いセシウムは一部はイオン拡散で移動するが、おおくは生物による撹乱作用で混合する。分配比の非常に高いマンガン、鉄、コバルト、亜鉛はただちに粒子に吸着し、生物による撹乱のみで混合する。加熱した堆積物中ではこれらの元素は移動しないことを確認し、その混合が生物による撹乱作用であることを確かめた。
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