熱帯島嶼海域の琉球列島周辺をモデル区域として、多様なタコ類の環境資源利用の実態と個体群形成の要因を解明することを目的とし、野外調査および室内実験を行い、以下に述べる結果を得た。 1.熱帯性タコ類の空間分布パターン(野外調査) 沖縄本島南部大渡海岸の潮間帯に200×200mの調査区を設け、大潮干潮時の前後2時間タコを採集し、GPSおよびGISを用いて採集場所を地図上に記録した。また、ライントランセクト法により調査区の底質環境を調査した。その結果、本調査区においては9種のタコ類が同時期に同所的に出現し、種によって異なる分布様式が認められた。その中で、小型種であるソデフリダコOctopus laqueusは特定の場所に集中して出現することがわかった。調査区域の底質環境を調べてタコ類の出現と比較した結果、明らかな相関は見られず、また餌に対する嗜好性の顕著な偏りがみられないことなどから、何らかの相互誘因性が個体間に働き、集団を形成している可能性があると考えられた。 2.熱帯性小型タコ類の同種他個体に対する認知(室内実験) 野外において顕著な集中分布を示したソデフリダコO.laqueusにおいて、同種他個体に対してどのような反応を示すかを飼育環境下において観察した。その結果、異性および同性個体に対して攻撃行動などの排他的な行動は見られず、頻繁に相手に接触する様子が観察された。この行動の評価は現在解析中である。 さらに、集団飼育によって飼育環境下でも集中的な分布パターンを示すことが確認された。 3.新しい技術の開発 野外、室内の双方においてより精密な個体の動態を探るため、個体識別は必須である。タコの個体識別はこれまで困難とされてきたが、本研究の中で用いたイラストマー蛍光タグは、動物に負担をかけることなく永続的に標識できるきわめて実用的な方法であることが判明した。
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