熱帯島嶼性タコ類の認知能力の実態と個体群の形成について調査するため室内実験及び野外調査を行い、以下に述べる結果を得た。 1.ソデフリダコの個体問関係と個体群形成(室内実験) ソデフリダコOctopus laqueusはサンゴ礁に生息する小型のタコである。沖縄本島沿岸で採集されたソデフリダコを実験対象とし、同種他個体に対する反応をより詳細に調べた。その結果、オス対メスの交尾行動のような行動はオス対オス、メス対メスにおいては見られなかったが、頻繁に接触する様子が観察された。また、同性間で共食いなどの極度に排他的な行動は見られなかったことから本種は縄張りなどを持たないことが示唆された。また昨年度の研究結果より本種は野外において比較的集中した分布パターンをとることから、本種は比較的高密度な個体群を形成していることが示唆された。 また、本研究の中でオスと交配したメス3個体が産卵し、孵化稚仔を得ることに成功した。これまで本種の卵の発達過程と孵化稚仔に関する情報は全くなかったため、詳細に観察し論文に纏めて発表した。 2.ソデフリダコの同種他個体に対する認知(室内実験) ソデフリダコの同種他個体に対する認知を調べた結果、オスのタコは接触可能な場合に、メスを認識できることが示唆された。このことから本種は同種他個体の情報を接触によって認知している可能性が高いと考えられる。ただし今後化学的刺激(臭い)などとの関連も調べる必要があると考えられる。 3.野外個体群とその多様性 熱帯島嶼海域では同じ生息環境に様々な種のタコ類が出現するが、そのほとんどが分類学的に未解決の種である。野外の個体群を把握し、環境資源利用の実態を探るためにはこれらの種の分類が必要不可欠である。本研究の中で個体群の調査と同時に標本を採集し、分類学的に検討し、2種の初記録種および1種の新種を得た。
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