DNA高分子鎖は多価カチオンや中性高分子であるPEGを添加することにより、凝縮転移を起こす。近年、この凝縮転移は単分子レベルにおいて、不連続にコイル状態から凝縮状態へと転移し、一次相転移であることが明らかにされた。また、DNAは強帯電高分子であり強い相関が生じ得る。多価カチオンなどの添加はイオン間に相関を生じさせ、同種荷電高分子間に引力をつくるものと考えられており、この寄与は低温側で大きくなる。ところが、この傾向に反し、これまで4価カチオンといった多価カチオン存在下において凝縮状態は高温側で安定になることを蛍光顕微鏡を用いた単分子観測により示した。この特異な現象は、凝縮に伴う1価カチオンと1価アニオンの放出により説明できることを示した。1価カチオン及び1価アニオンの放出によってエントロピー的に凝縮状態は安定になり、低分子アニオンがDNAに束縛されることでエネルギー的に安定になると理解できる。これにより、対イオンのみの考察では凝縮状態の安定性しか理解できなかったものの、コイルの安定性をも共イオンを考えることにより説明可能とした。また、共イオンの価数を変化させる実験を多価カチオン、PEG溶液において行った。その結果、1価アニオンよりも2価アニオンの方がコイルを安定にさせることが明らかになった。PEG存在下における共イオン価数依存性は、凝縮転移に伴い低分子カチオンを取り込むが、そのとき、低分子カチオンのイオン雰囲気を形成していたアニオンがはがされるときのエネルギーに起因しているものと考えられ、理論的考察から、転移点の移動を説明することができた。また、多価カチオン存在下における共イオン価数依存性は、PEG存在下におけるときよりも大きく、同じ枠組みでは理解することができないと考えられる。これは、転移点近傍において共イオンが多価カチオンとDebye遮蔽で記述できない強い相関を持っていると考えることで説明できることを示した。
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