本年度は下等脊椎動物であるメクラウナギを用いてRFamideペプチドの同定を行い、LPXRFamideペプチドの起源を探る目的で、以下のとおり実施した。 (1)クロメクラウナギの脳約500個体分(湿重量57.5g)を用いてペプチドの単離・同定を行った。方法はLPXRFamideペプチド抗体によるアフィニティーカラム精製を用いた。LPXRFamideペプチド抗体に陽性反応を示す物質を精製し、構造解析した結果、3つの新規RFamideペプチドを同定することができた。いずれのRFamideペプチドもC-末端にPQRFamide構造を有しており、LPXRFamideペプチドやニューロペプチドFF(PQRFamideペプチド)のC-末端に類似した構造であった。 (2)上記(1)で同定したペプチドのアミノ酸配列から縮重プライマーを設計し、前駆体遺伝子のクローニングを行った。得られた前駆体遺伝子には、上記(1)で同定したペプチドが3つともコードされていた。前駆体遺伝子から推定される前駆体タンパクの配列を他のRFamideペプチドと比較し、分子系統樹を作製して系統関係を解析した結果、メクラウナギから同定したRFamideペプチドはニューロペプチドFF(PQRFamideペプチドグループ)に近縁であることが明らかとなった。 (3)上記(1)、(2)で同定したペプチドとその前駆体遺伝子の脳内局在解析を行った。方法は免疫染色とin situハイブリダイゼーションを用いた。解析の結果、これらのペプチドとその前駆体遺伝子はともに間脳の視床下部において主に発現していることが明らかとなった。免疫陽性な神経線維は特定の神経核に集中してはおらず脳に広く分布していたことから、このペプチドは神経修飾因子として働いているのではないかと考えられる。 以上の結果から、PQRFamideペプチドは最も原始的な脊椎動物である無顎類にも存在することが明らかとなった。メクラウナギから同定したPQRFamideペプチドとLPXRFamideペプチドの系統関係は明らかではないが、C-末端の構造の共通性から、無顎類のPQRFamideペプチドがLPXRFamideペプチドの祖先型である可能性が考えられる。以上の成果を踏まえ、来年度は無顎類より下位の原索動物であるホヤや、無顎類より上位の軟骨魚類のサメなどを用いてLPXRFamideペプチドの探索を進めたい。
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