研究概要 |
筆者は、シアノ架橋型金属錯体RbMn[Fe(CN)_6]において、Mn-Fe間の電子移動とMn(III)におけるヤーン・テラー効果がドライビング・フォースとなった温度ヒステリシスを伴う熱的相転移現象(高温相⇔低温相)を観測している。また、この系で、ある閾値以上の高密度パルス光を照射した場合は、1ショットで磁化が消失するワンショットパルスレーザー誘起光磁性、閾値以下の低密度パルス光を多数ショット照射した場合は、消失した磁化が暗所で突然回復するという、時間発展型光磁性を示すことを見出している。本研究では、熱的相転移現象の大きな温度ヒステリシスの起源を検討するとともに、ワンショットパルスレーザー誘起光磁性,時間発展型光磁性現象のメカニズムの検討を行うことを目的としている。 (1)熱的相転移現象に関しては、RbMn[Fe(CN)_6]と化学的組成の異なる錯体Rb_xMn[Fe(CN)_6]_<(x+2)/3>・zH_2O(x=0.94,0.85,0.73)を合成し、熱的相転移現象を観測したところ、xが小さくなると転移温度が低くなり(T_p=259,236,205K)、温度ヒステリシス幅が大きくなることを見出した(ΔT=86,94,116K)。熱力学的パラメーターを含んだ理論式を用いた解析結果より、この傾向は、転移エンタルピー(ΔH)分のがxと供に減少したことによるものと推察された。 (2)光磁性現象の詳細な検討を行う第一歩として、RbMn[Fe(CN)_6]の紫外・可視光領域の吸収スペクトルの観測を検討した。RbMn[Fe(CN)_6]はマイクロオーダーの粉末で得られるため、光散乱効果により、紫外・可視光領域の吸収スペクトルを透過法で測定するのは困難である。そこで、分光エリプソメトリー法を用いて、紫外・可視光領域の誘電率虚部の測定を行った。その結果、高温相ではFe-CN配位子間の電荷移動吸収帯が410nmに観測され、低温相ではMn-Fe間の電荷移動吸収帯が504nm、Mn(III)のd-d遷移による吸収帯が504nmに観測された。また、紫外・可視光領域において、高温相と低温相では誘電率に大きな違いがあることを見出した。 (3)基底状態と準安定状態のエネルギー差が拮抗している温度領域における光照射効果を検討するため、温度ヒステリシス内でワンショットパルスレーザー光照射を行い、光変化を観測した。その結果、温度ヒステリシス内で低温相から高温相への光スイッチングに成功した(λ=532nm,閾値:6mJcm^<-2>pulse^<-1>)。
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