研究概要 |
筆者は、シアノ架橋型金属錯体において、Mn-Fe間の電子移動が起源である電荷移動型相転移現象(高温相⇔低温相)を観測している。また、この錯体に532nm光を照射すると磁化が消失する光磁性現象を見出している。本研究では、電荷移動相転移現象の大きな温度ヒステリシスの起源を検討するとともに、光磁性現象のメカニズムの検討を行うことを目的としている。 1.温度誘起の電荷移動相転移現象に関しては、錯体Rb_<0.64>Mn[Fe(CN)_6]_<0.88>・1.7H_2Oを合成し磁化率の温度依存性を測定したところ、138Kという巨大な温度ヒステリシス幅を伴った電荷移動相転移を観測した。この138Kという値は、Feを含む錯体で最大の温度ヒステリシス幅である。この結果を熱力学的パラメーターを含んだ理論式で解析することにより、巨大な温度ヒステリシスは転移エンタルピーが減少したために発現したものと推察された(Phys.Rev.B,73,172415,2006.)。 2.光磁性現象のメカニズムおよび光可逆性を検討することを目的として、RbMnFe錯体の可視光部誘電率測定を行い、低温相と高温相の光学遷移のタイプを決定した。その結果、低温相は430-540nm付近に金属間電荷移動吸収帯,高温相は410nmに配位子金属間電荷移動吸収帯を有することが示唆された。532nm光照射で誘起される相(光誘起相)は、高温相と電荷状態が近いことが示され、この相に410nm光を照射した結果、光誘起相→低温相相への逆光電荷移動が生じることを見出した。このときの磁化を測定したところ、410nm光照射で磁化が復元した。光誘起相の磁気オーダリングを検討したところ、反強磁性体であることが示唆された。この結果から、本可視光可逆光磁性は、強磁性【tautomer】反強磁性間の現象であることがわかった。強磁性体【tautomer】反強磁性体の光スイッチングは、本研究が初めての報告例となる(J.Am.Chem.Soc.,in preparation.)。 3.光磁性現象に伴う光誘起ダイナミクスを構造的な観点から検討することを目的とし、本錯体の単結晶合成を目指し、Rb_<0.88>Mn[Fe(CN)_6]_<0.96>・0.5H_2Oの単結晶化に成功した。 RbMnFe錯体はアルカリカチオンドープ型プルシアンブルー類似体に分類されるが、この単結晶合成は非常に難しいことが知られており、得られた単結晶が与えた構造情報は、構造化学分野において大変重要なものである(Z.Anorg.Allg.Chem.,in press)。
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