研究課題
1.NQO1を標的とした癌特異的分子標的治療の確立我々は、膀胱癌に対する膀胱全摘術前・術後補助化学療法に関するretrospectiveな多施設共同研究の結果から、浸潤性膀胱癌でも化学療法で完全緩解となったものは予後が良い傾向にあるという結果を得、基礎研究として従来の化学療法の副作用を軽減しつつその抗腫瘍作用を高めるための新たな分子標的治療を模索した。特に、我々は従来より尿路上皮癌におけるp53腫瘍抑制遺伝子の遺伝子変異に着目した研究を行ってきたが、これまでの結果から尿路性器癌においてp53遺伝子が抗癌剤細胞障害に対し抑制的に作用しており、その修飾により化学療法感受性を亢進させることができるのではないかという発想に至り、癌細胞において発現の亢進するRedox関連分子NADH Quinone Oxidoreductase-1(NQO1)が癌細胞においてp53蛋白を安定化させるとの報告がこれまでなされていることに注目し、これらRedox関連分子の修飾を介しての抗癌剤作用の増強、およびp53経路を介した抗癌剤耐性機序の解明と克服という新たな試みに取り組んだ。具体的には、すでに欧米で抗凝固剤として臨床応用されているジクマロールがNQO1の作用を特異的に阻害することを利用し、ジクマロールを併用することでシスプラチン(CDDP)、アドリアマイシン(ADR)等の抗癌剤の抗腫瘍効果が増強される知見をMTTassay,TUNEL染色にて見出し、さらにwestern-blot解析による発現解析実験や各種酵素阻害剤・siRNAによる機能抑制実験を行い、Dicoumarolの細胞障害活性がp53-p21経路を介した細胞周期停止機構を阻害し、その結果JNKを活性化することでmitochondriaを介したapoptosisを誘導することを解明した。また、正常尿路上皮では逆に細胞障害活性がジクマロールの併用にて減弱されており、NQO1の癌組織における発現亢進を考えれば、この結果は尿路上皮癌のみならず種々のがん治療に対し大きな意義をもつ可能性があると考えている。2.膀胱全摘前補助化学療法の効果に関する網羅的遺伝子解析前向き多施設共同研究にて集積した浸滴性膀胱腫瘍サンプルからmRNAを抽出し、cDNA microarrayを行うことで、抗癌剤感受性に関連する因子の同定を試みた。これは、当研究員が昨年中に1ヶ月間New Zealand Otago大学にて行ったものである。その結果、癌の進展・アポトーシスに密接な関係を持つ細胞内酸化ストレス制御に関わるglutathione S-transferaseやThioredoxin関連遺伝子が化学療法感受性マーカーとしてpick upされており、現在そのvalidationを新たなサンプルを用いておこなうとともに、その機能的意義について細胞株における発現解析実験や機能抑制実験を検討中である。
すべて 2006 2005
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Oncogene In press
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