18年度の前期は、主にX線天文衛星Suzaku搭載CCDカメラXISの機上較正試験に専念した。XISは軌道上での宇宙線被曝により、その性能が刻一刻と変化する。これを常時追跡し、正確に評価することが、信頼性の高いスペクトル解析には必要不可欠である。私は、XISに備え付けられた55Feのキャリブレーション用線源や、スペクトルがよく理解されている較正用天体のデータをもとに、観測時期に応じた応答関数作成用データベースを作成した。このデータベースは世界中の研究者に配布され、利用されている。その他にも、検出効率やエネルギーゲインの較正などに中心的な役割を果たした。後期はそれらキャリブレーション結果を利用して、超新星残骸、主にSN1006の熱的スペクトルの解析を行った。鉄からの強い輝線を初めて明確に検出し、他の元素との組成比を精度良く求めることによりSN1006がI型超新星爆発の残骸であることを確定的にした。さらにプラズマ中の陽子の温度が電子の温度の20倍程度も高い極端な熱的非平衡状態にあることや、鉄が他の元素よりも残骸の内部に多く分布したため衝撃波による加熱の開始が遅かったことなどを証明した。この結果は超新星残骸の熱的進化の理解に大きな助けとなると確信している。また、SN1006以外にも、RCW86やTeVγ線望遠鏡HESSが発見した超新星残骸候補天体などのX線観測を行い、そのデータ解析に貢献した。このうちいくつかは既に論文として受理され、他のものも近日中に投稿する予定である。
|