研究概要 |
本年度は、主にX線天文衛星Suzakuを用いた超新星残骸の観測およびそのデータ解析に専念した。 まず超新星残骸SN1006の南東部(熱的放射が最も強い領域)からは極めて電離度の低い鉄からのK殻輝線を世界で初めて検出した。さらに全X線帯域のスペクトル解析によって、超新星爆発時に生成された多量の鉄が残骸の中心付近に局在するため、逆行衝撃波による加熱が他の生成元素に比べて遥かに遅れている証拠をつかんだ。これらの結果は査読論文として受理され、また博士論文の主軸にもなった。 また、超新星残骸RCW86北東領域のデータ解析においては、鉄のK殻輝線放射の空間分布を初めて明らかにし、その放射起源が極めて近い過去に逆行衝撃波によって加熱されたイジェクタ(爆発噴出物)であることを明確に示した。イジェクタのX線放射強度分布とプラズマ年齢は、RCW86周辺の星間物質の密度が極端な非一様性を持つため、逆行衝撃波の進化が場所によって大きくことなることを示唆する。これらの内容についても既に査読論文として受理され、学会誌に掲載されている。 この他に、Tycho,EO509-67.5,N103Bなど、様々な超新星残骸からの熱的X線のスペクトル解析を行い、それらの結果を博士論文にまとめた。一般に若いIa型の超新星残骸では、未加熱のためX線を放射できない鉄が残骸の中心付近に多量に残存することや、1keV以上の連続スペクトルがほとんど非熱的起源である可能性が高いことなどを示した。
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