研究課題
今年度は西欧所蔵のアイヌ資料と北米アイヌ資料との比較研究を進め、在米アイヌ資料に関する補充調査を実施した。比較の試みを通して、西欧の研究者がアイヌ研究と資料収集に特に関心を抱いた知的背景がかなり明確になってきた。特にフランツ・フォン・シ-ボルト以降、「高貴なる野蛮人」、失われたヨーロッパ人、消滅しつつある狩猟民としてのアイヌ文化への学問的関心が、アイヌ研究をを推進した。19世紀半ば頃から提唱されたアイヌ=コーカソイド仮説は、欧米諸国民と研究者の関心を高めた。第一次大戦勃発とそれに伴う社会変化のため、アイヌ文化を含む狩猟文化研究が停止した。日本人研究者によるアイヌ研究は、その停止期以降に始まったことが浮き彫りにされてきた。前年までの在米アイヌ資料の調査の遺漏を補うために、シカゴとニューヨークで補充調査を実施した。シカゴではシカゴ大学図書館特別資料部所蔵のF・スターのコレクションのうち、ランターン・スライド類を精査し、さらに、写真類も入手した。フィールド自然史博物館のアイヌ資料に関する背景記録は、前回までの調査時には不足していたが、今回の補充調査で、収集者に関する情報を入手することができた。ニューヨークのアメリカ自然史博物館所蔵の資料のなかで、A・C・ジェイムスの寄贈品についての詳細な資料を入手できた。これらの補充調査により、北米アイヌ資料の調査はほぼ終了したと考えている。海外アイヌ・コレクションの調査研究は、特定民族に関わる博物館資料の悉皆調査としては、世界で初めて実施しているものである。その意味で、本研究計画による研究成果に、とくに北太平洋地域の研究者が一致して注目しており、欧米の北方文化研究者が立案しているジェサップ2計画の先駆的役割を果たすものである。
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