研究課題
国際学術研究
本研究は、インドネシア国東部における調査から、天然更新資源の利用と資源管理について近年における変容過程を明らかにすることを目的としている。3年間にわたる調査は、LIPI(インドネシア科学院)による調査許可を取得して、毎年6-7名の調査者によって実施された。主要な調査地は、スラウェシ島(およびその周辺の離島)、ハルマヘラ島、バチャン島、アンボン島、セラム島、マレ(ティドレ)島などである。これらの島じまのなかには、小規模なサンゴ礁島から大規模な火山島までが含まれている。環境条件のことなった地域においてどのような天然資源が利用されてきたかを明らかにするために、サンゴ礁、マングローブ、サゴヤシ地帯、熱帯雨林を選んだ。サンゴ礁としては、スラウェシ島南西部のウジュンパンダン沖のコディガレン島、北スラウェシのメナド沖のナイン島、中部スラウェシ島のバンガイ諸島である。マングローブ地帯は、北スラウェシ周辺とブナケン島、中部スラウェシのルウクなどである。サゴヤシ地帯としては、バチャン島、ハルマヘラ島、セラム島などを選んだ。熱帯雨林地帯としてはセラム島と中部スラウェシを選定した。調査にさいしては、資源利用に関するリストの作成、自給用の資源、商業用の資源およびその両者における使い分けに注目した。また資源獲得のための空間利用と時間配分について面接、直接観察によってさまざまな資料をあつめた。昆虫についてはとくに標本を採集し、のちの同定用とした。調査にかかわる集団としては、バジャウ、ブギス、マカッサル、ゴロンタロ、バンガイ、オラン・ワナ(スラウェシ島)、ティドレ、カオ(ハルマヘラ島)、バジャウ(バンガイ諸島とバチャン島)、ヌアウル(セラム島)などである。とくに商業用の資源利用については水産資源と森林資源に着目した。前者のなかには、ナマコ、フカひれ、高瀬貝、真珠貝、小型のイカ、アジなどとともに、ハタ科、ナポレオンの活魚、鑑賞用の熱帯魚をめぐる生産と流通について興味ある事例を得た。また90年代からはナイン島で海藻の養殖が開始され、デンマークへの輸出品とされる。後者の熱帯森林産物としては、ロタン、シナモン、ハチミツ、樹脂などがあり、なかでもロタンは重要な現金源であり、スラウェシ島の山岳地帯ではオラン・ワナや入植者であるバリ、ジャワ人によって採集され、華人やブギス人の商人を通じて取り引きされる。このような流通機構の中では、生産者であるバジャウとそれを第一次的に購入する仲買人であるブギス、それを買う別のブギス、ないしは華人、さらにそれを買う別のブギスや華人がおり、複雑なネットワークを形成している。これを調査の過程で議論した結果、エスノ・ネットワークとして規定することにした。そして、さまざまな事例ごとにどのような特徴のあるネットワークが形成されてきたかを地域やグローバルエコノミーとの体系のなかで調査をおこなった。活魚や熱帯鑑賞魚の輸送には香港からの買いつけ用の活魚船だけでなく、ウジュンパンダンやデンパサール(バリ島)経由で輸送される。こうした80-90年代以降の新しい水産品の受容に応じて東部インドネシアでは開発と保護、資源の適正利用についての議論がなされている。マングローブ林の保護と利用、観光地における資源保護と生活問題、移民による開発と地元民との対立構想など、資源利用をめぐる矛盾が露呈している。東部インドネシアではサシとよばれる資源利用規制の慣行があり注目を集めている。ただし、調査によると、共同体内部の問題としてはすぐれた機能をもつといえるが、村落間での紛争や入植者や入漁者とのいざこざには有効ではない。こうした場合に、裁判所や地方政府など公的な機関による調停や調整が必要である。とくに共有とされる海や森林の資源利用をめぐっては、詳細な事例をあつめることによってより地域に根ざした環境利用モデルを策定することが急務である。以上のように、現代における環境利用の研究には、地域ごとに詳細な生態学的、人類学的庵観点からの情報収集と研究が不可欠である。
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