研究概要 |
肺腺癌の家族性集積を認めた家系を対象とした平成7年度までの研究では、p53,K-ras,p16遺伝子の異常および3番染色体短腕(3p13-26)の共通欠失領域は認められなかった。しかしながら、replication error phenotype(RER)が5腫瘍中4腫瘍と高頻度に検出されたことにより、本家系の肺癌発症におけるDNAミスマッチ修復異常の関与が示唆された。 そこで、本年度は解析する染色体領域を拡大し、17番染色体短腕(17p13.1)および非小細胞肺癌において未知の癌抑制遺伝子の存在が想定されている9番染色体短腕(9p21-23)を計7ヶのマイクロサテライトマーカーを用いて解析した。17p13では全ての腫瘍に異常を認めなかった。9p21では2腫瘍にloss of heterozygositty(LOH)が検出されたが、本家系において共通な9p欠失領域は認められなかった。RERは9p上で2腫瘍に認められた。そこで、ミスマッチ修復遺伝子であるhMSH2が同定されている2番染色体短腕(2p13)におけるLOHを3ヶのマイクロサテライトマーカーで検討した。正常部DNAがヘテロ接合性を示し、評価可能であった2腫瘍てはLOHを認めず、本家系の肺癌発症におけるhMSH2遺伝子の関与は否定的であった。また、若年性肺腺癌の1症例で(手術時19歳)、母親が42歳で肺腺癌に罹患していた母子において、上記家系と同様にp53mutation、3p13-26,9p21-23,17p13.1,2p16におけるマイクロサテライト解析を行った。いづれの症例でもp53mutationは認められず、またこの母子間において共通する染色体欠失領域は認められなかった。 今後は、濃厚な家族歴を有する肺癌家系は極めて稀であることから、解析対象を肺癌の若年発症例で家族歴を有する症例にも広げて研究を進めていく予定である。
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