研究概要 |
肺癌を中心とした四世代87人を追跡調査した。三世代にわたる家族集積肺癌の13人はすべて肺腺癌で、世代による若返りと多発癌症例も含まれ、本家系は遺伝性素因を有する肺癌家系と考えられた。まず、5症例7腫瘍において細胞生物学的解析をおこなった。FISH法によると6腫瘍で17番染色体数的異常を認めたが、癌DNA量では7腫瘍のすべてにおいてDNA diploidyを示した。このことより、本家系は広範囲の染色体数的異常を生じていないと考えた。つぎに、非小細胞性肺癌で高頻度の異常が指摘されている癌遺伝子のK-rasと癌抑制遺伝子のp53とp16について検討した。検体は6症例の肺癌組織9検体と正常組織9検体、末梢血リンパ球4検体を利用した。これらの癌遺伝子や癌抑制遺伝子の胚細胞変異および体細胞変異は認められず、本家系の肺癌の発生とは関係なかった。さらに、5症例9腫瘍について、3番染色体短腕と9番染色体短腕のマイクロサテライト解析をおこなった。LOHでは3p21.3-22で40%、3p23で33%、9p21で60%に認められたが、すべての症例における共通欠失領域はなかった。しかし、注目すべきことにRERでは88%と高頻度に認められ、本家系の肺癌発生に重要な役割を演じていた。そこで、ミスマッチ修復遺伝子の検索をおこなった。しかし、hMSHとhMLH1遺伝子のLOHは認められず、hMSH3遺伝子の変異もなかった。また、TGFβRII遺伝子とBAX遺伝子の反復配列にも異常がなかった。最近、1人の新鮮肺癌組織と正常組織を入手できCGH法を施行した。肺癌組織ではGainが11q,12qで、Lossが1p12-31,6q12-qter,9p12-pter,13q12-qterで認められた。正常組織にはこれらの異常を認めなかった。さらに、17症例の若年者肺癌について同様の分子生物学的検討を加えたが、本家系と異なり3p,9pのLOHやRERは低頻度で、hMSH3,TGFβRII,BAX遺伝子の異常も認められなかった。
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