本研究においては、ヘテロ接合形成前に基板に含まれている結晶欠陥を明らかにしておき、ヘテロ接合形成過程で生じる結晶欠陥と区別することが重要である。また、基板を単に加熱することによる欠陥の変化を明らかにしておくことも、その上に異なる物質のエピタキシャル層を成長させることにより発生する欠陥とその機構を解明する上で、重要である。 そこで、まず現在最も欠陥の少い半導体結晶であるシリコン基板中に含まれる欠陥を、フーリエ変換ラマン及び赤外分光器を用いて評価した。その結果、これまでに、500℃とその後の650℃の熱処理によって、引上げ成長シリコン基板中に、非常に高密度の酸素析出核が発生することが明らかになった。このことは、通常700℃以上で行われるヘテロ接合形成過程においても、そのような析出核やそれに付随した欠陥が発生することを、十分予測させる結果である。 そこで、それらの酸素析出核の熱に対する安定性を調べるため、500℃及び650℃で熱処理した後、更に800〜1200℃で熱処理を行った。その結果、1100℃付近で酸素析出核の構造に変化が生じると推定されるデータが得られた。 また、シリコン基板上に3μmの厚さのガリウムリン(GaP)エピタキシャル層を成長させたものを、斜め研磨し、厚さ方向の異なる位置でラマンスペクトルを測定したところ、ヘテロ界面付近のGaP中には応力は存在しないのに対し、界面から0.75μm程度離れると、10^9dyn/cm^2オーダーの応力が存在することがわかった。 このように、ヘテロ構造中の応力の分布が測定されつつあることは、ヘテロ接合形成にともなう欠陥発生の機構を解明する上で、重要な知見が得られつつあることを示している。
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