平成8年度を最終年度とし、平成7年度に常時微動測定を行った法隆寺建物4棟(五重塔、金堂、中門、大講堂)についてFFT解析を行い、測定値と計算値との比較照合についてさらに詳細な検討を加え、以下のような知見を得た。 1.五重塔:10ヘルツ以下に3個の明瞭なピークが見いだされ、固有振動数は1次から順に、0.9Hz、2.5Hz、4.2Hzであった。振動モードは1次が対角方向の振動、2次は五重の柱脚レベルで位相が逆転する高さ方向の2次モードであった。また、最上層における軌跡は、対角方向に振動する場合と、円形に振動する場合とがあった。一方、5質点系の振動モデルを想定して、積算によって求めた質量を用い、各層のせん断剛性を算出した。その結果、上層に向かって減少するような剛性の値が得られた。 2.金堂と中門:それぞれの建築物で10ヘルツ以下に2個の明瞭なピークが見いだされた。1次、2次の固有振動数は金堂では1.80Hz、2.07Hz、中門では1.56Hz、1.80Hzであった。振動モードはいずれも1次が梁間方向並進、2次が桁行方向並進であった。減衰定数は1.7%から4.4%の間にあった。固有振動数から金堂初重の剛性を算出すると2.79×10^4〜3.69×10^4kg/cmとなり、柱傾斜復元力による剛性の占める割合は75〜81%に達すると考えられる。 3.大講堂:10Hz以下に4個のピークが見いだされた。1次〜4次の固有振動数は1.7Hz、2.1Hz、2.5Hz、4.1Hzであった。振動モードは1次が梁間方向並進、2次が桁行方向並進であった。3次は梁間方向のねじれモードであった。減衰定数は1.9%から2.5%の間にあった。固有振動数から大講堂の剛性を算出すると1.62×10^4〜2.50×10^4kg/cmとなり、柱傾斜復元力による剛性の占める割合は88〜95%に達すると考えられる。
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