研究概要 |
グルタミン酸受容体のサブタイプの一つであるNMDA受容体のヒトにおける核医学イメージング研究を可能ならしめるラジオリガンドの開発のため,NMDA受容体拮抗剤であるTCP分子を基本骨格として新規標識リガンドの合成と小動物における評価を行なった.TCP分子のチオフェン環の5位に^<18>F-フルオロエチル基を導入したリガンドは,ラット脳内NMDA受容体にインビボで約50%の特異的結合を示した.また,シクロヘキサン環の2位にハイドロキシメチル基を有する脂溶性の低いリガンドはインビトロ親和性が高い.そこで,ハイドロキシメチル基とフルオロエチル基の二つの官能基を有するTCPラジオリガンドは,優れたインビボイメージング剤として期待された.^<18>F標識合成を^<18>Fアニオンを用いる求核置換反応によって達成した.本リガンドのラット生体内分布の検討から,血液からの消失は速く,脳組織には投与10分後で取り込みピークが観察された.脳局所分布では,NMDA受容体の存在密度の高い大脳皮質において最も高い放射能集積を認めた.しかし,cis-HPTCなどを用いた結合阻害実験では効果が認められず,受容体に対する特異的結合の割合が小さいことが示された.さらに,インビトロ親和性の評価においても期待された受容体親和性は認められなかった.さらに,TCP分子のチオフェン環の5位にヨウ素,カルボキシル基,メチル基などを導入したリガンドを創製した.いずれの誘導体も満足すべき受容体親和性を示さなかった.しかし,シクロヘキサン環の2位にメチルオキシメチル基を有するTCP分子は,インビトロ下で非常に高いNMDA受容体親和性(IC_<50>=28nM)を示すことが明らかとなり,炭素-11による標識とサルPETを用いた評価を検討している.
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