研究概要 |
環境変異原物質や毒性物質に暴露される危険の多い環境下の労働者は職業性疾患に対する罹患危険率の高いことが知られている。一方同一環境下においても発症に関して個人差が存在し、そこに何らかの遺伝的素因の関与が推測される。この疾患感受性に影響を与える遺伝因子を解明するため肺癌を対象としたcase control研究を行った。対象集団はアルミ、銅、錫、石油などの工場の多い地域(中華人民共和国,沈陽地方)の肺癌患者および一般健常者である。遺伝的マーカーは化学発癌物質の解毒、代謝に関与するGlutathione S-Transferase(GSTMI)およびCytochrome P450 1A1(CYP1A1)を用いた。今年度は更に症例数を増やして検討を行った結果、次の成果が得られた。 1)GSTM1には遺伝子全体にわたる欠失が多型として検出される。本研究ではこの欠失の出現頻度を肺癌(扁平上皮癌、腺癌、小細胞癌)患者群と健常群につき比較した。欠失型の頻度は健常人が58.4%であるのに対し、扁平上皮癌:69.4%,腺癌:78.9%,小細胞癌:80.0%となり特に腺癌、小細胞癌において高い有意差(P<0.01)が観察された。また肺癌全体の頻度も健常者との間に同様の有意差が検出された。GSTM1 gene deletionは肺癌における遺伝的risk factorであることが判明した。 2)CYP1A1には遺伝的多型(1,2-1,2型)が存在し、このうち2型遺伝子をもつものは酵素誘導が1型に比べ2.5倍以上高いことが知られている。従って、CYP1A1の生体内での機能を究極の発癌物質生成としてとらえると2型の方のリスクが高い。本研究においては、肺癌患者のうち小細胞癌では、逆にpoor inducerである1型が健常人(48.8%)より有意に高い頻度(74.0%)で検出された。今後発癌におけるCYP1A1の機能の面からの検討が必要である。
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