36例の早期大腸癌病変(パラフィン切片)を入手し、DNAを抽出した。APC遺伝子は、進行大腸癌で変異のおよそ半数が集積するMCR部(mutation cluster region)を5領域に細分化し微小変異の有無を、RNaseプロテクション法を介した塩基配列決定法により検討した。また、遺伝性のFlat Adenoma Syndromeの一部でエクソン3、4の変異が報告されているため、この領域についても検討を加えた。36病変の内、いわゆるde onvo型癌と考えられる24病変では、APC遺伝子変異を検出したものは2例のみであった。1例はIIa集簇型の径10mmの病変で、コドン1466にGGA(Gly)からTGA(Stop)への点変異が、もう1例はIIa+IIc型の径4mmの病変で、コドン1367にGAG(Gln)からTGA(Stop)への点変異が証明された。これら36病変については、さらに同様の手法で、p53遺伝子変異の検討も行った。19例でストップもしくはアミノ酸置換を伴った微小塩基変異が検出された。すなわち、表面型の早期大腸癌では、p53遺伝子の変異による不活化は、進行癌とほぼ同様の頻度で認められるのに対して、MCR部におけるAPC遺伝子変異の頻度はかなり低いことが明らかとなった。この結果より、表面型早期大腸癌では、p53遺伝子変異は必須であるが、APC遺伝子変異が関与していない可能性も考えられる。あるいは、今回検討していないMCR部以外におけるAPC遺伝子変異がこれら病変の発生に関与しているのかもしれない。また、進行癌でのAPC遺伝子変異の頻度が高いことを考えると、APCとp53遺伝子変異の生じる時期が逆転している可能性も残される。今後さらに解析症例を増やし、形態との関連性やその他の癌関連遺伝子変異との関連性についても検討を加える必要がある。なお、現在論文発表を準備中である。
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