研究概要 |
(1)平成6年度の外科治療成績の検討に引き続き,今年度はその治療の効果を遠隔期のデータをもとに検討した。(対象)対象は,術語生存し得た21例である。(結果)(1)NYHA重症度分類:術前I度0例,II度2例,III度15例,IV度4例であったが,術後I度6例,II度11例,III度3例,IV度1例に改善した。(2)動脈血液ガス(ROOM AIR):術前PO2;57.1±8.4mmHg,術後1ケ月PO2;62.8±11.9mmHg,術後6ケ月PO2;76.7±9.4mmHgと有意に改善傾向を示した。(3)循環動態:術前平均肺動脈圧45.3±7.4mmHg,術前心係数2.6±0.5l/min/m^2,術前肺血管抵抗値795.7±285.9dynes・sec・cm^<-5>であったが,術後2〜3ケ月には各々29.5±8.2mmHg,3.2±0.5l/min/m^2,407.8±177.6dynes・sec・cm^<-5>と有意に改善した。 (2)実験モデルの作成:トタネキサム酸経口投与下に下大静脈内に血栓を発生させ,この血栓により肺塞栓症モデルを作成することを試みたが,目的とする慢性肺動脈塞栓犬の作成には至らなかったため,アルミニュウムでコーティングされたセラミック・ビーズを用いたモデル作りを検討し,その技術を,現在,米国カリフォルニア大学サンディエゴ分校にて修得中である。 (まとめ)本症における外科治療は,その治療直後より循環動態の改善を認めるとともに,動脈血液ガス所見においても遠隔期(6ケ月)には,有意に改善していることが判明した。また,NYHA重症度分類でも大多数の症例において改善傾向を認め,QOLの向上をもたらすことが示唆された。しかし,治療成績は,未だ満足すべきものではなく,その原因となる術後再灌流障害などの病態の解明には実験的検討が必須であり,慢性モデル犬の作成を引き続き試みる所存である。
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