これまでは、ウシコンドロモジュリン-I(bChM-I)の構造のみが知られているだけであった。そこで、本年度は、ヒトコンドロモジュリン-I(hChM-I)cDNAのクローニングを行って、その構造を明らかにすることとした。軟骨組織は胎生期の骨格形成部位では豊富に認められるものの、胎生後期に軟骨組織の大部分は骨に置換される。そこで、ヒト軟骨組織の入手は困難であった。そこで、正常軟骨組織の性質を良く保持している高分化型ヒト軟骨肉腫組織からRNAを抽出して、cDNAを作成した。これをテンプレートとして、PCR法によりhChM-IcDNAの全コーディング領域をクローニングすることに成功した。その結果、hChM-Iは、bChM-Iに比較して3塩基/1アミノ酸の欠失があることが明らかとなった。前駆体全体での相同性(Sequence Identity)は、塩基レベルで89.6%、アミノ酸レベルで91.9%であった。成熟型ChM-I蛋白質領域を比較すると、N-結合型オリゴ糖鎖付加部位は保存されていたが、糖鎖修飾を受けていると想像された2個のThr残基のうち1個は保存されていなかった。逆に、8個のシステイン残基を含むC-末端側疎水性領域は、1アミノ酸残基(H→Y)の置換が認められる以外は完全に一致した。次に、hChM-Iの生物活性を検定するためにcDNAをCOS細胞に発現された。ところが、hChM-IcDNAの発現レベルは予想よりも遥かに低かった。hChM-IcDNAの開始ATGコドン近傍の配列が組換え体の発現効率の低下を引き起こしているので、GGCTTCATG→GGCACCATGに改変した。その結果、組換えDNA技術を用いてChM-Iの生合成経路と高次構造の形成過程を解析するための実験系を確立することができた。SDS-PAGEでは、bChM-Iと同様に約25kDのdifuse bandとしてrecombinant hChM-Iが検出された。
|