去年度は、構成主義を中心にその基礎的諸概念の主要課題としてきた。本年度は、それを受けて(1)ブラウワ-の「充全に分析された証明」という概念のさらに立ち入った分析を行い、(2)ブラウワ-的な直観主義の一種の認識論としての特徴づけが構成主義以外の立場にどのような意義をもたらすかを明らかにするとともに、(3)新たなフレーゲ主義とでも言うべき一種のプラトニズムの立場を視野におさめることで実在論と構成主義あるいは実在論と唯名論といった既存の対立軸を再検討することであった。残念ながら、(1)については大きな進展は得られなかったが、その他については一定の前進を得ることができた。まず、ブラウワ-的な直観主義を一種の認識論として特徴づけるべきだとするデトゥルフセンらの主張を受けて、このような直観主義の捉え方が、ミルのディレンマ、すなわち論理的な推論が必然的に妥当という性格をもつことと、論理的な推論によって認識的に新たな帰結へと倒れることとの間のディレンマを解くことに向けて有効であることを示すことができた。これは、ディレンマへの解答の中に構成的な観点と実在論的観点の双方が無理なく位置付けられることを示していると考えられる。第二に、数学的な対象を含む抽象的な対象への指示がいかにして可能となるか、という観点から新フレーゲ主義の立場を分析し、この立場が一種の言語的なプラトニズムであるとともに、しかしながら従来のプラトニズムや実在論とは異なり、構成的な観点とも両立し得る立場であることが明らかとなった。それゆえ、数学の哲学における現在の進展が、従来の二分法的な対立軸を解体し、新たな局面に入りつつあることは明らかであり、本年度の研究によりその一端を具体的に示すことができたと考えている。
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