3年にわたる研究計画の第1年次には、1880年代フランス近代公教育の組織構造化の問題を、国家が県・コミューンに対して「後見的地位」を確立する文脈において検討した。革命後100年後ようやく成立した義務教育は、その組織編制の原則を「コミューンによる初等教育役務」から「国家による初等教育役務」へ根本的に転換する事で可能となった。この基本構造の確立の過程を、81年初等教育無償法、82年初等教育義務世俗法、86年初等教育組織法、89年初等教育費負担法という一連の初等教育法体系に即して実証的に検討した。 第2年次は、先の基本構造が、1982年法と1983年法による「地方分権化」によって、どのように変容したのかに迫った。国家の「後見的地位」が廃止され、初等教育はコミューンの事務となったことにもかかわらず、すでに施行後10年以上経過した現在も、官僚国家フランスの性格は未だ色濃く残っているようである。 最終第3年次は、日本の教育における地方分権化の問題を考察した。戦後の憲法・教育教育基本は、戦前の教育勅語体制における「教育の国家事務」を「教育地方自治(自治体固有事務)」へと原理上転換したが、現実には戦後50年の間、文部省による中央集権的教育行政が行われてきた。近年の「地方分権化」の流れの中で、文部省も対応を迫られている。そこで、文部省の動向を整理しながら、国際化・自由化・情報化等が進行する現代日本において、子どもの権利条約と親の学校参加を基本原則にして、「自治・分権型」教育行政へと構造転換していくべきであることを指摘した。 今後のフランス研究は、地方分権化の中で、親・生徒の学校参加導入〈75年法(アビ法)〉や教育基本法〈89年法(ジョスパン法)〉などが、学校現場、特に経営組織・運営面においてどのようなインパクトを与えたのかを解明したい。
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