本研究では、主として1980年代に行われた日米共同研究以降の研究動向に注目し、(1)日本におけるアメリカ教育研究、(2)アメリカにおける日本教育研究、の2つのテーマに分けて、それぞれの特徴を探った。 (1)については、アメリカ教育のもつ多様性を反映して、扱う問題も多岐にわたっているが、主として文献を手掛かりとした高等教育と教師教育に関する研究が多い。それらは、個々の教育事象に関する情報を詳しく得ることに力点が置かれているが、それがアメリカ教育全体あるいは文化・社会全体の中でもつ意味の考察に及んでいるものは多くない。また、日本の教育についての自己評価は、アメリカと日本の比較という手法において自覚され、成果が得られた。 (2)については、(1)より件数は少ないが、教育が日本の経済発展を生み出した一因であるとの観点から近年とみに活発化しており、研究者数、論文数ともに増加している。研究関心の中心には、学校教育の効率性の高さとそれを可能にした諸条件があり、アメリカ教育へのヒントを得ようとする動機が見られた。関心は、効率性の犠牲とみなされる諸側面にも向けられ、効率性は高いが創造性に欠けるといった、ステレオタイプ化した日本教育評価が定着してきた。今日では、情報の豊富化にともなって、日本の教育を独自の論理と構造をもった文化として、より全体的、統一的に把握しようとする意図が芽生えてきている。それとともに、日本を見ることでアメリカの教育を支える考え方や慣行をあらためて吟味しなおそうとする見方が生まれてきている。すなわち、相手方を評価することによって自己を相対化する、自己評価の試みがようやく始まったのである。
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