欧州連合のみならず他の国家によっても多用され、政治的、社会的に大きな問題となっている制裁の問題に着目し、事例研究により、共同体およびその加盟国による制裁の法的根拠を検討した。 そこにおいて、共同体および加盟国は、当初制裁に関する共同体権限を認めず、制裁という政治的手段を共同体条約に基づいて行うことについて否定的であったが、徐々に経済制裁を行う共同体権限を認めていったことが明らかになった。その課程で共同体権限の根拠として用いられたのは、共通通商政策に関する113条であったが、加盟国権限に対する224条の留保の問題は残っていた。そのためマ-ストリヒト条約228条Aにおいて共同体として政策を行う権限が認められた。 マ-ストリヒト条約の改正後においても、共同体加盟国の留保に関する224条は存在しており、共同体権限としての制裁行使と共同体加盟国による制裁行使の問題は現在でも存在しており、将来の特定の事例において問題となることも否定できない。また、EC条約の制裁に関する規定は、欧州連合における共通外交政策及び共通安全保障条約の一環として行使されることが予定されている。これらの共通政策について、欧州連合条約が一定の規定をおくが、欧州連合条約の規定は、枠組みを定めるのみである。現実の政策決定にあたっては実行の積み重ねにより、当該政策の範囲及び共同体権限と加盟国権限間の関係が明らかにされなければならないであろう。
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