ポリシランは究極の量子細線、量子平面である。リン(^<31>P)をドープできればメゾスコピックな低次元n型半導体となり、新物質として興味深い。今のところ^<31>Pドープは核反応による中性子転換注入法が唯一の方法であるが、^<30>Siの天然存在比、中性子反応断面積、利用する中性子束、中性子照射時間等に依存して生成される^<31>Pの量は少なく、精密な物性測定のためには高純度試料を得ることが最大の課題である。 本研究では高純度試料の調製を目指した綿密な反応手順を検討し、8種類の1次元、2次元ポリシランを合成した。不純物は副産物のNaClおよび末端Cl基で、これらの残量を中性子放射化分析法で定量した。どの試料でも合成法を反映してCl基がNaClより必ず多く残っている。最高純度の場合でもNaCl、Cl基の残存濃度は数十ppmであった。^<31>Pドープ試料の精密物性を測定するためには、さらに純度を1〜2桁高める方法を探索する必要がある。また、核反応でNa、Clは放射化されるので、被曝や測定操作の煩雑さを避けるためにも重要な課題である。 ポリマーの数平均分子量を求める方法として末端基定量法がある。一方、ポリシランには末端Cl基があるから、放射化分析法によるCl基の定量という核的手法でポリシランの数平均分子量を求めることができる。この新手法で得られた数平均分子量の中には10^7という高分子量のものがあった。これはポリシランが応用上有利な性質を備えており、幅広く分子量を制御すれば多彩な物性を発現させることに利用できる可能性を示している。但し、キャストフイルムが得にくいという物性測定に不利な性質については改善方法の探索が必要である。 本研究の推進には試料の高純度化に加え、^<31>Pの生成量を増やす方策も同時に必要である。今後、^<30>Si-エンリッチ法、高中性子束の利用、長時間中性子照射等の有効な方法を試み初期の目的を達成したい。
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