これまでに、現実的な地形を持つ準地衡風モデルを用い、カオス的遍歴といわれるものが天候レジームの力学的根拠になりうること、また個々のレジームにはそのもとのトーラスの長周期振動を反映した振動が存在し、これが低周波振動の根拠になるうることを示してきた。今年度に行ったことは、これらをより現実的にすること、およびもう一種類の低周波変動の根拠を明らかにしたことである。 パラメータをもう少し不安定側にずらすことによって、レジームのうちひとつの領域(以下、Xという)がますます大くきなり、残りの領域は小さく、かつ見えにくくなる。このときXではパターンは大きく変化することになり、Xがひとつの天候レジームを示すとは言えなくなる。領域が広がるという性質は、もともとアトラクターXが位相空間の比較的「平坦な」場所に存在していることから生じたものである。一方、他の領域は狭く、パターンはほぼ一定している。これらが現実大気の天候レジームと対応していると考えられる。またXでは低周波振動の振幅はかなり大きくなっている。これもうまく現実の低周波振動を説明できると考えられる。 EOF1や2では低周波変動が卓越しており、テレコネクション・パターンに対応していると考えられる。この根拠は以下の通りである。まずEOF1のパターンは時間平均を基本場にして線形化したときの線形方程式の第1固有関数のパターンとほぼ一致している。しかもその固有値はたいへん小さい。言い換えると、強制に対して強く応答し、かつその時間変化は小さいということである。このようなモデルの幾何学的構造により、EOF1はEOF1になりえたということである。このことは平均場の周辺で位相構造が「平坦」であることによって保証される。これもそのような必然性のあることが明らかにされた。
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