窒素及びカリウムがリンゴ果実のアントシアニン生成に及ぼす影響を検討するために、窒素及びカリウムの過剰施与を‘ふじ'の樹に、窒素の葉面散布を‘紅玉'樹の枝に処理した。窒素の過剰施与によって、土壌、葉及び果肉中の窒素含量は増加した。樹上における果実のクロロフィル含量は窒素施与樹で多くなったが、アントシアニン含量には大きな違いは認められなかった。採取した果実に人工光を照射してアントシアニン生成量を調査した。‘ふじ'では成熟初期ではアントシアニン生成量は窒素施与果実に比べて無処理果とカリウム施与果の方が多かったが、成熟後期ではカリウム施与果、窒素施与果、無処理果の順となった。窒素を葉面散布した‘紅玉'でも同様の結果となり、窒素散布を行った果実では成熟に伴うアントシアニン生成能のピークが無処理の果実に比べて遅くなることが示唆された。また、窒素処理果実と無処理果実のアントシアニン生成量は光照射処理の温度によっても異なった。すなわち、‘ふじ'では15℃では無処理果に比べて窒素及びカリウム施与果でアントシアニン生成量は多くなったが、20℃では差は小さいものの無処理果の方がアントシアニン生成量は多くなった。また、6月初旬に袋で被袋した‘ふじ'の被袋果では無処理果の方が窒素施与果に比べてアントシアニン生成量は多かった。これらの結果から、窒素及びカリウムがリンゴ果実のアントシアニン生成に及ぼす影響は、アントシアニン生成を検討する温度及び果実の成熟段階、さらに被袋の有無によって異なることが示唆された。今後、窒素及びカリウムがアントシアニン生成に影響を及ぼす機構について検討するためには、これらの関係を明確にすることが必要である。
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