ベータガラクトシダーゼ遺伝子を導入した形質転換細胞((PC12-VG)を用いて、FprskolinやTPA刺激によりサイクリックAMPやプロテインカイネースC(PKC)を活性化させる。これらの活性化を経てベータガラクトシダーゼの遺伝子発現が誘導される経路について、変動磁場(ELF)曝磁、非曝磁下で実験を行い、ELFのシグナル伝達に対する関与を異なった磁束密度を用いて径時的な変化の有無について検索した。非曝磁対照のforskolinで4時間刺激した場合のベータガラクトシダーゼの活性を100%とする。この刺激をELF(200mTおよび400mT)曝露下で行うとベータガラクトシダーゼ活性は磁束密度依存的にさらに上昇した。forskolinにTPAを加えた場合、ベータガラクトシダーゼ活性は非曝磁下でforskolin単独に比べ約2.34倍、この刺激を400mTのELF曝露下で行った場合、ベータガラクトシダーゼ活性は約2.52倍に上昇した。 一方、ヒト由来培養樹立細胞(McWo)を用いて磁場による突然変異誘発に関して検討した。突然変異誘発を検索する遺伝子座として、hypoxanthinc-guaninc phosphoribosyl transferase(HPRT)遺伝子を選んだ。ELF曝露(50Hz、400mT)による誘導電流密度の影響を検討するため直径15cmのド-ナツシャーレを用いた。6-TG抵抗性細胞の集落形成を指標として、HPRT遺伝子の突然変異誘発頻度を検索した。その結果、400mTのELFを1時間から20時間まで曝露した場合、2時間で約4.5倍、10時間で約6倍に突然変異誘発頻度は増加した。ELF曝露をさらに20時間まで行ったが、突然変異誘発頻度のさらなる増加は見られず、ELF10時間曝露とほぼ同じレベルであった。従来、ELF曝露では突然変異の誘発が起こらないとされてきた。本研究で用いられたELF(50Hz、400mT)は我々の生活環境におけるELFの磁束密度に比べて1万倍以上という非常に高いものであるが、本課題で得られた結果は、ELFにより突然変異誘発頻度が増加することを初めて示した報告である。
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