本年度は次年度の準備段階としての性格が強く、めざましい結果はまだ得られていないが、研究はほぼ予定通りに進行している。現在のところ、可溶性因子としてのSecAとSecB、基質としてのc-mycおよびHis_6タグを持つ数種のOmpA前駆体、そして、SecE単量体について精製が終了している。変異体SecYとしては、SecY24(ts)、SecY39(cs)、SecY104(cs)、SecY122(cs)、SecY125(cs)、SecY205(cs)、SecY^<-d>1の7種類を解析の対象として選んだ。SecE/SecY/(SecG)複合体は、SecY24を含むもの以外His_6-SecE/SecY過剰生産株からNi-NTA-agaroseにより部分的に精製された。野生型複合体について、混在蛋白質を除くためQ-Sepharoseカラムが次の精製ステップとして有効であることが明らかとなり、これによって、野生型および変異型の分泌装置が精製できると考えている。secY24変異については、当研究室の馬場らがin vivoで複合体形成に問題があるというデータを出しており、これと良い一致を示す。SecY単量体については当初のGST融合遺伝子を用いた精製法を変更し、SecEと同様に、N′末端にHis_6タグを付加してNi-NTA-agaroseを用いて精製中である。この融合遺伝子の融合部位にはFactor Xaの認識部位を導入してあり、His_6タグを除去することができる。 こうした実験に付随して、精製したSecAなどの可溶性因子の活性や基質(pro-OmpA)の膜透過能確認のため、反転膜小胞を用いたin vitro膜透過反応解析も行っている。この解析の中、pro-OmpAの膜透過がHis_6タグの導入位置がシグナル配列のごく近傍(シグナル配列切断位置より20残基ぐらいまでの成熟体領域)にあるときに100μM程度のNi^<2+>に感受性となることが明らかとなった。Ni^<2+>の影響はin vitro translocation反応のごく初期にのみ見られることから、His^6タグへNi^<2+>が配位する結果、成熟体部分のシグナル配列近傍に正電化が導入され、シグナル配列活性が弱められえためと考えられる。事実、Ni^<2+>の存在下では分泌装置のpro-His_6-OmpAに対する親和性は低下しており、また、secYのもう一つのタイプの変異であるprl変異、つまりシグナル配列認識が甘くなる変異は、この阻害をin vitroにおいて抑えることができる(本年度分子生物学会にて発表)。こうしたことから、成熟体のN-末端領域にHis_6タグをもつpro-OmpAは分泌装置が基質を認識する過程を解析する上で、生化学的な新しい手段を提供するものとして期待し、この方面の解析にも視点を向けようと計画している。
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