ヒトでは仙骨部から起始する自律神経として交感神経系の下腹神経と副交感神経系の骨盤内臓神経が区別され、両者が合わさって骨盤神経叢を構成する。さらに約50%において仙骨部から仙骨内臓神経が起始するが、動物(イヌ、ネコ、マカクのサル類)ではこの神経は存在せず、下腹神経と骨盤神経のみである。免疫組織化学的染色ではイヌの骨盤神経内に交感神経節後線維が存在する。従来、機能的に副交感神経と定義されてきた骨盤神経は組織学的にも副交感神経成分に一部交感神経成分が混在した神経として定義することが必要である。 下腹神経が分岐する下腸間膜神経節はイヌ、ネコで存在し、ヒトでは腸管系を支配する下腸間膜(動脈)神経節と骨盤内臓を支配する上下腹神経叢の分化が認められ、霊長類はこの中間に位置する、このように骨盤部のみならず、腹部でも自律神経の構成において形態学的にも動物とヒトで明確な相異がある。 機能面ではこれまで、下腸間膜神経節を構成する腹腔神経節から由来する中央線維群はemissionに、側方線維群は内尿道口の閉鎖に関係するとされてきたが、この両者の機能に関係するのは側方線維群、すなわち、第3腰椎から第5腰椎の交感神経幹神経節(第2-4腰髄)から起始する腰内臓神経である。さらにオスでは前立腺や尿道、メスでは泌尿器では膀胱頚部、尿道上部、生殖器では子宮頚部と膣上部が同じく腰内臓神経によって支配されている。さらに、これらの腰内臓神経は上位では下腸間膜神経節で、下位の末梢では前立腺(精嚢)神経叢で左右の交叉現象が認められ、両側支配の2重交叉現象が観察された。 上記の下腹神経を介する交感神経経路が遮断された場合には腰部交感神経幹、仙骨部交感神経幹、仙骨神経、骨盤神経を介する交感神経路が存在し、いずれも機能的に不十分ながら代償路として存在する。
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