研究概要 |
本年度は、まずPICT-1の機能損失が引き起こす細胞内シグナルの変化について、PTENによって制御されているPI3K/PIP_3シグナルの下流エフェクター分子群の活性を指標に評価した。PI3K/PIP_3エフェクター分子群(Akt, S6K, GSK3β)の活性化状態(部位特異的リン酸化)をウェスタンブロット法により解析した結果、PICT-1ノックダウンの作用に伴いPI3K/PIP_3エフェクター分子群の恒常的活性化が引き起こされることが明らかとなった。次にPICT-1/PTEN制御系の変調が導く細胞形質の変化について、「増殖」および「生存」という視点から解析した。まず、悪性形質転換を引き起こしていないNIH3T3細胞(HeLa細胞等の悪性形質転換している癌細胞においては足場非依存性増殖能を亢進することは既に明らかにしていた)の軟寒天中でのコロニー形成能を指標に細胞形質の変化を検討したところ、PICT-1のノックダウンにより足場非依存性増殖能の獲得が観察された。さらに、血清飢餓やスタウロスポリン処理によって誘導されるHeLa細胞のアポトーシスをTUNEL法により解析した結果、PICT-1をノックダウンした細胞群では上記した処理による細胞死誘導に対して抵抗性を示した。これらの結果から、PICT-1の機能損失に伴い足場非依存性増殖能およびアポトーシス抵抗性の獲得といった腫瘍形成の引き金となる悪性形質転換を起こすことが明らかとなった。さらに、ヒト腫瘍標品を用いてPICT-1の機能損失が腫瘍病変形成の原因となっている組織の同定を試みた。その結果、ヒト神経芽腫(既にPICT-1 mRNAの変異が高頻度で観察されていることを明らかにしていた)において高頻度(約60%)でPICT-1タンパク質の発現異常が観察された。さらにPICT-1/PTEN両タンパク質の発現量に有意な正の相関性(相関係数=0.691)があることが明らかとなった。これらの結果からヒト腫瘍においても先のin vitroで得られた結果と同様に、PICT-1を介したPTENタンパク質の量的変動が腫瘍病変の原因となっている可能性が示された。
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