アフリカ東部にあるタンガニイカ湖には世界的に珍しい協同繁殖する魚類が十数種生息する。魚類の協同繁殖の進化を解明することを目的とし、協同繁殖するカワスズメ科魚類Julidochromis ornatusの繁殖ペア、ヘルパーの利益とコスト、精子競争が精子量、精子特性に及ぼす影響、グループサイズと繁殖成功、生活史に関する調査研究を実施した。さらに、タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類の多様な繁殖戦術の進化を解明するために、異なる繁殖戦術や子の保護様式を持つ種間で、精子量や精子特性などの調査を行った。その結果、次のような研究成果が得られた。1)協同繁殖している各個体のコストと利益を試算するため、ヘルパーの除去実験を行い、親の行動と保護されている仔魚の死亡率の違いを除去前・除去後で比較した(解析中)。2)J. ornatusのオスヘルパーはグループ内で頻繁に繁殖参加していることが明らかになったことから、複数の成熟オスがいることによる、精子競争と精子量、精子特性への影響を調査した。採集した協同繁殖グループの各個体の精子量と精子特性を調べた結果、本種の種内での精子競争は精子量には大きな影響を与えるが、精子特性には影響を与えないことがわかった。3)協同繁殖する鳥類では、質のよいなわばりや巣をもつ繁殖グループは親の質が高い、ヘルパーの数が多い、繁殖成功度が高いことが知られている。そこで、J.ornatusで巣のサイズ、親の体サイズ、ヘルパーの数、繁殖成功度を調べたところ、大きな親ほど、巣が大きい、ヘルパーが多い、繁殖成功度も高いという結果が得られた。4)多様な繁殖戦術と精子進化の関係を調べるため、繁殖生態の異なる15種の精子量と精子特性を調べた。その結果、一夫一妻の種では、一夫多妻の代替繁殖戦術を持つ種に比べ、精子量が少ないだけでなく、精子のスピードも遅く、寿命も短いことが明らかになった。
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